古代裂の復原

伝統技術の保存と継承

光峯は現在の織物業界の危機的状況を憂い、「日本伝統織物保存研究会」を立ち上げました。この目的は、伝統的先染紋織物の伝統技術の保存と継承にあります。そのためには、古代の素晴らしい織物美術を研究し、復原として甦らせ、職人たちと共に伝統技術を後世に伝えるべく制作しつづけなければなりません。この事業は「総合的復元事業」といい、古代の織物の制作に関わるすべての伝統技術に対して研究をし、復原を行う事業です。繭の引き方から機装置、道具類の製作まで、なるべく当時の制作方法を用いて織物を制作しています。この復原の事業によって現在仕事が減少している職人たちへ仕事を創出することができ、技術を保存、継承し、記録を残す事もできるのです。

伝統技術の保存と継承

復原とは?

「復原」とは、まず染料や織り方を古代裂から細かく分析し、織られた機の構造を研究してそれを再現し、できるかぎり古代の技法を用い、同じ植物で糸を染め上げ、当時と同じといってもさしつかえのないような条件と状況を機上につくり出すことを「復原」といっています。機は万能に色々な裂を織れるのではなく1つの機で1つ裂しか織ることができません。裂の種類ごとに機が異なりますので、裂から機を推測し、機をつくる作業が必ず必要となります。

復原とは馬鹿になること。

復原とは馬鹿になること。

「織物を復原する哲理は、たとえ一万点の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の交差する点があったとしても、その一万点を正しく、くまなく、根気よく調べて、そのすべてがわかれば、一千年経っていようとも復原することは可能である」と初代平蔵は語っています。一枚の織物となると、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の交差点は数十万点、数百万点になります。織物を復原するには、まず馬鹿になること。てこでも動かないような鈍根と、愚直なまでの一途さが必要になります。

復原裂

緑地花鳥獣文錦(みどりじかちょうじゅうもんきん )

復原元(本歌)復原裂

本裂は、東京、京都両博物館の所蔵する正倉院裂の一つで、聖武天皇一周忌斎会(757年)を飾った道場幡の垂脚(すいきゃく)の止め飾りとして使用された古代の緯錦、倭錦(やまとにしき)である。実物を御覧になれば一目瞭然であるが、デザインが非常に精緻で高度なことが挙げられる。中央にはいわゆる「唐花」といわれる大きな花があり、対の「獅子狛犬」が上部にいて、さらに上部には対の水鳥が波紋と思われる上に浮かんでいる。副文には小さな花と「ザクロ」と思われる紋などがあるが、やはりメソポタミア起源の対の動物の中央に「生命の木」がある樹下動物文の系統を引く図柄であると考えられる。
これを見ているとつくづくデザインなどは「不易流行」という場合の流行があるだけでまったく進歩していないのではないかと思われる。コンポジションは明晰に「同心円」と「六角形」で構成されているが、決して単に「抽象的」とはいい切れず、「抽象」とか「具象」とかいう近代の狭苦しい枠を悠に超えている。また、すべての白い線が古代紫の線で「くくられている」ことと、何となく線が柔らかくやまとぶりを感じさせる、見事な錦である。

赤地花菱襷状鳥花文錦(あかじはなびしたすきじょうちょうかもんきん)

復原元(本歌)復原裂

奈良時代に比べて、応仁の乱をはじめ多くの戦乱や災害があったためか、平安時代のものと特定出来る裂は、遺されたものが極めて少ない。そのうち最も貴重視されているものの一つに、高尾山神護寺(たかおざん じんごじ)より出たとされる御経を包む経帙(きょうちつ)の縁裂(ふちぎれ)に使用されている、一連の、通称「神護寺裂(じんごじぎれ)」がある。今回、この縁裂の一つ、「赤地花菱襷状花鳥文錦」を復元対象に、平安時代の機装置と推測されるろくろ装置を製作し、平安様緯錦の特徴を備えた本裂を復元した。

赤地牡丹唐草文錦(あかじぼたんからくさもんきん)

復原元(本歌)復原裂

阿須賀神社の古神宝を含めて、熊野速玉大社(和歌山県)に数多く伝えられる古神宝類は、いずれも一応室町時代の製作になるものと考えられている。その古神宝の一つに、三面の鏡に錦の袋が付属するものがある。その鏡をこの錦に包み鏡箱に納められたものと知られている。本裂は、昭和三十年に国宝に指定され、国有となり、現在は京都国立博物館に保管されている。見かけ上は平安時代の準複様綾組織緯錦と変わらないが、それ迄の母経と芯経との役割を、片方が表経のみ、他方は裏経のみの組織構成になり、風通様の二重組織となっている。また、機装置では文把釣に5本把釣を使用し、緯の牡丹文には黄・紫・白の段替りを取り入れるなど、機装置や紋様に新しい技法が採用された錦であると考えられる。

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